第 1 章 Azure ID とガバナンスを管理する(20〜25%)

Microsoft Entra のユーザーとグループ

この章で学ぶこと

  • ユーザーとグループを作成する
  • ユーザーとグループのプロパティを管理する
  • Microsoft Entra ID でライセンスを管理する
  • 外部ユーザーを管理する
  • セルフサービス パスワード リセット (SSPR) を構成する

この章に出てくる用語

Microsoft Entra ID
組織の「人とアプリの名簿」を預かるクラウドサービス。誰がいるか(ユーザー)、どういうまとまりか(グループ)、何を名乗るアプリか(サービスプリンシパル)を保管し、サインインの認証を行う。旧称は Azure Active Directory。Azure のリソースとは別の階層にあり、Azure 以外(Microsoft 365 など)の認証もここが担う。

Azure を触りはじめた人がまず混乱するのが、「サブスクリプションを作ったのに、ユーザーはどこにいるのか」という点だ。答えは、ユーザーはサブスクリプションの中にはいない。

Azure には性格の違う 2 つの階層がある。ひとつは Microsoft Entra ID のテナントで、ここには人・グループ・アプリといった「誰か」が入る。もうひとつは管理グループ → サブスクリプション → リソースグループ → リソースという入れ子で、こちらには仮想マシンやストレージといった「物」が入り、課金もこちら側で起きる。

図 1-1 ID を持つ階層と、物を置く階層
図 1-1 ID を持つ階層と、物を置く階層

2 つの階層は信頼関係でつながっている。サブスクリプションは必ずどれか 1 つのテナントを信頼し、そのテナントにいる ID にだけ権限を渡せる。逆に 1 つのテナントは複数のサブスクリプションを束ねられる。だから「本番用」「検証用」とサブスクリプションを分けても、ユーザーは 1 か所で管理できる。

試験では

サブスクリプションを別のテナントへ移すことはできるが、移すとロールの割り当て(RBAC)がすべて失われる。「テナントを移動したあと管理者がアクセスできなくなった」という筋書きが出たら、原因はこれ。

補足

テナントは組織に 1 つ、というのが原則だが、技術的には複数作れる。試験では「別の会社を買収した」「取引先と共有したい」といった文脈で複数テナントが出てくる。その場合の答えは大半がゲスト招待(B2B)で、テナントを統合する話ではない。

旧称が Azure Active Directory だったせいで、「オンプレミスの Active Directory(AD DS)をクラウドに持っていったもの」と誤解されやすい。実際には別物で、提供している機能が重なっていない。

図 1-2 AD DS にあって Entra ID に無いもの
図 1-2 AD DS にあって Entra ID に無いもの

AD DS は社内ネットワークの中で、PC をドメインに参加させ、グループポリシーで設定を配り、Kerberos や LDAP で認証する仕組みだった。Entra ID はインターネット越しに使う前提なので、認証は HTTP ベース(OAuth 2.0 / OpenID Connect / SAML)で、ドメイン参加もグループポリシーも持たない。

やりたいこと使うもの
クラウドアプリへのシングルサインオンMicrosoft Entra ID
PC の設定を配布するMicrosoft Intune(Entra ID ではない)
LDAP や Kerberos が必要な古いアプリを IaaS で動かすMicrosoft Entra Domain Services、または VM に立てた AD DS
オンプレの ID をクラウドでも使うMicrosoft Entra Connect / Connect cloud sync で同期

試験では

「ドメイン参加が必要」「グループポリシーを適用したい」と書かれていたら、答えは Entra ID ではない。Entra Domain Services か、IaaS の VM に自分で立てた AD DS になる。選択肢に Entra ID が並んでいても引っかからないこと。

ユーザーを作る操作そのものは難しくない。試験で問われるのは「どこで作られた ID か」で、それによってどこで編集するかが変わるからだ。出自は 3 つしかない。

図 1-3 クラウド ID・同期 ID・ゲストの違い
図 1-3 クラウド ID・同期 ID・ゲストの違い

クラウド ID

Entra ID の中だけで生まれたユーザー。対応するオンプレミスのアカウントを持たない。作成も編集も削除もクラウド側(ポータル・CLI・PowerShell)で完結する。

ディレクトリ同期 ID(ハイブリッド ID)

オンプレミスの AD DS にいるユーザーを、Microsoft Entra Connect または Connect cloud sync でクラウドへ写したもの。写し元はあくまでオンプレ側にあるので、氏名や部署といった属性の編集は原則オンプレ側で行う。クラウド側で変えても、次の同期で上書きされるか、そもそも編集が拒否される。

ゲストユーザー(外部 ID / B2B)

他のテナントのアカウントや個人の Microsoft アカウントを招待して、自分の組織のリソースを使わせる仕組み。招待されたユーザーは自分のテナントのまま認証し、こちらのディレクトリには「ゲスト」として登録される。UPN に #EXT# が入るので一目で見分けられる。

試験では

同期 ID の属性をクラウドで直せない、という性質はそのまま出題される。「オンプレから同期しているユーザーの部署名を変えたい」→ オンプレの AD DS で変更する。ポータルで変える、という選択肢は誤り。

# ユーザーを作る (PowerShell: New-AzADUser)
az ad user create --display-name "山田 太郎" \
  --user-principal-name [email protected] \
  --password <パスワード>
# 属性で絞って一覧する
az ad user list --filter "department eq '営業'"
# 削除する。削除後 30 日は復元できる
az ad user delete --id [email protected]

補足

削除したユーザーは30 日間「削除済みユーザー」に残り、その間は復元できる。30 日を過ぎると完全に消えて戻せない。「誤って消した。戻せるか」という問いの答えはここ。

ユーザーのプロパティは数が多いが、AZ-104 で狙われるのは実質 2 つに絞られる。

使用場所(Usage location)

ライセンスを割り当てるために必要な属性。国によって提供できないサービスがあるため、Microsoft 側が配信可否を判断するのに使う。ここが空のままだとライセンス割り当てが失敗する。一括でライセンスを配ったのに一部のユーザーだけ失敗した、という場面の原因は大半がこれ。

管理単位(Administrative Unit)

ディレクトリの一部分だけを切り出して、そこに対する管理権限を限定するための入れ物。「大阪支社の管理者には、大阪支社のユーザーだけパスワードリセットさせたい」といった要件はこれで実現する。テナント全体の管理者ロールを渡さずに済む。

試験では

管理単位はオンプレの OU に似ているが、リソースの入れ物ではない。入るのはユーザー・グループ・デバイスであって、仮想マシンやストレージは入らない。リソース側の権限範囲を絞るのは管理グループ/サブスクリプション/リソースグループ(第 2 章)。

グループは 1 つの軸で覚えようとすると混乱する。独立した 2 つの軸がある。種類(何のためのグループか)と、メンバーシップ(メンバーがどう入るか)だ。この 2 つは自由に組み合わせられる。

図 1-4 グループの 2 軸
図 1-4 グループの 2 軸
セキュリティグループMicrosoft 365 グループ
主な用途アクセス権・ライセンスの付与共同作業(メール・SharePoint など)
メンバーにできるものユーザー、デバイス、他のグループ、サービスプリンシパルユーザーのみ
付いてくるものなし共有メールボックス・予定表・SharePoint サイト
メンバーシップ割り当て済み/動的割り当て済み/動的

もう一方の軸がメンバーシップだ。割り当て済みは管理者が手で出し入れする。動的は「department が営業」のようなルールを書いておき、属性が一致したユーザーやデバイスが自動で出入りする。人事異動のたびに手で直す必要がなくなるかわりに、ライセンスの条件が付く。

試験では

動的メンバーシップには Microsoft Entra ID P1 以上のライセンスが要る。無料版では使えない。「追加費用なしで実現したい」と書かれていたら動的グループは選べない。

試験では

デバイスをメンバーにできるのはセキュリティグループだけ。Microsoft 365 グループにデバイスは入らない。「デバイスをまとめて扱いたい」が条件なら、この一点で答えが決まる。

# グループを作る (PowerShell: New-AzADGroup)
az ad group create --display-name "営業部" \
  --mail-nickname eigyo
# メンバーを足す(割り当て済みの場合)
az ad group member add --group "営業部" \
  --member-id <オブジェクトID>

ライセンスはユーザー 1 人ずつにも付けられるが、実務でも試験でも主役はグループベースのライセンス割り当てだ。グループにライセンスを割り当てておくと、そのグループのメンバーになった時点で自動的にライセンスが付き、抜ければ外れる。

これを動的メンバーシップと組み合わせると、「営業部に配属されたら自動でグループに入り、自動でライセンスが付く」という流れになる。試験で「入社や異動のたびの手作業をなくしたい」と書かれていたら、この組み合わせが答えになる。

試験では

グループにライセンスを割り当てたのに一部のユーザーだけ付かない、という状況の原因は使用場所(Usage location)が未設定か、ライセンスの空きが足りないかのどちらか。この 2 つを先に疑う。

補足

ライセンスの割り当てには、含まれるサービスプランを個別にオン・オフする機能もある。「Teams だけ使わせない」といった要件はここで満たす。

取引先や業務委託先にリソースを使わせたいとき、自分のテナントにアカウントを作るのではなく、相手のアカウントのまま招待する。これが B2B コラボレーション、画面上は「外部 ID」や「ゲストユーザーの招待」として現れる。

  1. 招待を送る(メールアドレスを指定する。招待メールが届く)
  2. 相手が承諾すると、自分のテナントにゲストとして登録される
  3. ゲストをグループに入れたり、RBAC でロールを割り当てたりして権限を渡す

ゲストは既定ではディレクトリの情報をごく一部しか読めない。どこまで見せるかは「外部コラボレーション設定」で調整でき、「誰がゲストを招待できるか」もここで制限できる。

試験では

「社外の人にファイル共有させたい」→ ゲスト招待。「社外の人のためにアカウントを新規作成する」は運用上も試験上も誤り。相手が退職してもこちらでは気づけず、アカウントが残り続けるため。

セルフサービスパスワードリセット(SSPR)は、ユーザーが管理者に頼まずに自分でパスワードを再設定できるようにする機能だ。ヘルプデスクの問い合わせで最も多いのがパスワードリセットなので、効果が大きい。

構成項目は多く見えるが、「誰に」「何個で」「どこへ返すか」の 3 つに整理できる。

図 1-5 SSPR の 3 つの構成軸
図 1-5 SSPR の 3 つの構成軸
構成項目選ぶものよくある誤り
有効範囲なし/選択済み(グループ)/全員 の 3 択「一部のユーザーだけ」は「選択済み」でグループを指定する
認証方法メール、電話、Authenticator アプリ、セキュリティの質問 など方法を 1 つしか有効にしていないと、必要数 2 を選べない
必要な認証数1 個 または 2 個2 個にするなら方法を 2 つ以上有効にしておく
書き戻しパスワードライトバックの有無ハイブリッド環境でこれを忘れるとオンプレ側が古いままになる

最後のパスワードライトバックが、ハイブリッド環境での要になる。オンプレの AD DS と同期している環境で SSPR を使うと、既定ではクラウド側のパスワードだけが変わる。ライトバックを構成して初めて、新しいパスワードがオンプレの AD DS に書き戻され、社内 PC へのサインインにも反映される。

試験では

SSPR は利用者が自分で行う機能。管理者が他人のパスワードをリセットする操作は SSPR ではなく、別のロール権限の話になる。問題文の主語が「ユーザー自身」か「管理者」かで答えが変わる。

補足

管理者アカウントに対する SSPR は、一般ユーザーより条件が厳しい。既定で 2 つの認証方法が必要になり、セキュリティの質問は使えない。

この章のまとめ

  1. 1 つのサブスクリプションが信頼できるテナントの数は
  2. サブスクリプションを別テナントへ移すと失われるものは
  3. ドメイン参加とグループポリシーが必要なとき、Entra ID の代わりに使うもの
  4. オンプレから同期しているユーザーの部署名を変える場所
  5. ゲストユーザーの UPN に入る文字列
  6. 削除したユーザーを復元できる期間

この章の根拠

試験 AZ-104 の学習ガイド(Microsoft Learn)

最終確認 2026-10-04 / 対応バージョン DEA 2026-05-04 改訂版